愛情こめて…

1

 ——夕日差す、放課後の教室。
 ほとんどの生徒が下校した校舎に、女性教諭と一人の男子生徒が残って、 補習授業を受けている。
「どう、古田君? 空欄、埋められた?」

 やさしく微笑み、小首を傾げながら尋ねる彼女の名は、柿田 琴枝(かきた ことえ)。私立寿恵川(すえかわ)学院初等部に勤務する英語教師である。寿恵川学院では、初等部でも高学年からは英語の授業がある。彼女は、5年C組の担任を受け持ちながら、高学年の英語の授業を担当している。
 寿恵川学院は、ひと学年が150名ほどの規模を持つ初等〜高等一貫の男子校である。男子校の中では、20代の若い女性教諭というだけでも、ただでさえ希少な存在である。琴枝はそれに加えて、おっとりとして落ち着いた雰囲気の美人であり、ストイックな面がありながらも感情的に怒るような姿は全く見せず、いつも生徒たちに親身になって接してくれる優しい性格の持ち主。さらに、身長も高く、洋服の上からでもはっきりと分かるほどの圧倒的なボリュームを誇るHカップの巨乳を兼ね備えている、となれば、彼女が生徒たちから絶大な人気を誇っているというのは、なんら不思議なことではない。
 しかし、そんな優しく、美しく、グラマーな琴枝先生に“もうひとつの側面”が存在する——
 そのことを知る者と知らぬ者で、この寿恵川学院は二分されているのである。

「ま、まだ……、もう少しです………」
 ただ一人、補習授業を受けている生徒、古田(ふるた)は、小さな声を振り絞るように答えた。
 琴枝は、彼の机に置かれた補習用のプリントをちらりと見て、まだ答案が半分ほどしか埋まっていないのを確認して、小さく頷く。
「ゆっくりでいいから、よく考えて答えてみてね」
 問題が解けない生徒を急かすわけでもなく、彼に寄り添うように優しい言葉をかける琴枝。
 だが、そう言いながら彼女は、古田の席の前に立ち、くるりとせを向けると……、彼の机の上にどすんっと腰を下ろした。
ひッッ
 古田の口から小さな声が漏れる。が、琴枝はそれが聞こえず、何事もないかのように振る舞う。
 彼が向かう机、その向かい側から天板上に乗る琴枝のロングスカートに包まれた尻。それは、机が初等部用の小ぶりなものであるということを差し引いても——特大、と表現せざるを得なかった。机の横幅と、そこに乗った尻の横幅がほとんど変わらないのだ。置かれたプリントに覆いかぶさらんばかりに、琴枝の巨尻が鎮座している。その光景に、古田は、青ざめていた。
 机の上に、それも生徒の机の上に座る、という教師としてはあり得ない行為。いつも優しく模範的な教師である「琴枝先生」からは最もかけ離れた行為のはずだが、彼女は臆面もなく古田の目の前に尻を下ろして動かない。
「どうしたのかな?古田君。ペンが進んでないんじゃない?」
「あ、ぁ、あの……、そ、その…………」
 机の上に座ったまま、琴枝は斜め後ろを振り返って彼の手元に目をやる。
 ぷるぷると震えて返答すらままならない古田。そんな彼に琴枝が向けるのは、普段と少しも変わらない、慈しみに満ちた母性的な笑顔だった。
「うん、わかったわ。それじゃ、先生と一緒に考えてみましょうか」
 そう言った直後、彼女は、ほんの少し姿勢を前傾させて、机の上に乗せた巨尻を後ろ向きに浮かせる——

ぶうぅぅぅっすううぅぅーーーーぅううーーーぅぅううぅううううっっ!!!!

んぐぅえぇえええッッ!!!?
くッ、くッさぁいぃぃーーーーーぃいーーーぃいいいいいッッ!!!!

 ——そうして響き渡った爆音と古田の悲鳴を聞く琴枝の口元には、堪え切れない笑みが溢れていた。

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